認知症の高齢者が、トイレではなく、洗濯したばかりの衣類をしまったタンスに排尿したり、トイレの隣にある洗面器に排尿したりするのは何故ですか?
トイレにするよりテクニックがいるだろう、と思うようなところに排尿したり、トイレの隣で排尿をされると、嫌がらせかと思ってしまいます。
以前、このような相談を受けました。
認知症の人の排泄の問題や困りごとは結構ありますが、デリケートな問題なので、なかなか人にも相談できなくて、難しいところです。
私たちは、排泄物を汚いものとして教わってきたので、トイレ以外の排泄は、「不潔だ」と思いますし、臭いが残ったりするので掃除も大変ですよね。
また私たちは、排尿はトイレでするものと教わってきました。認知症の人も、認知症になる前は、トイレで排泄していました。だからそれができないと「わざとなのかな」とか、「嫌がらせなのかな」と思ってしまうかもしれません。
他の日常生活ができていればなおさらですよね。
しかし、こういった場合、「ちゃんとトイレでおしっこしてよ!」と怒っても逆効果ですし、「嫌がらせしているの?」と問い詰めても意味がありません。
また、トイレ以外で排尿=失禁と考えて、おむつ(リハビリパンツなど)を使う場合がありますが、それでは解決しません。
このブログでは認知症の人が洗面器やタンスなどトイレ以外の場所で排尿する理由と対応方法についてお伝えします。
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なぜ認知症の人は洗面器などトイレや便器以外のところで排尿するのか?
認知症の人が、洗面器などトイレ以外の場所で排尿をした場合、本人に問い詰めたり、おむつなどで対応しようとする人は多いです。
しかし、そういった対応よりも認知症の人がどのような所をトイレと思っているのか、どのようなモノを便器と思っているのか、ようは相手の認識を知ることが先に必要です。
まず、最初の前提として、認知症になって認知機能が障害されると、認識が変化するということです。
私たちは、排尿はトイレでするものと教わってきました。認知症の人も、認知症になる前は、トイレで排泄していました
この、トイレで排泄するというのは覚えているけど、どういったところがトイレ(便器)なのかがわからなくなる、ようはトイレや便器の認識が変化すると、今回の相談のようにトイレ以外で排尿するという現象がおこるのです。
ここでちょっと考えていただきたいのですが、あなたのトイレの概念はどうですか?また、便器の概念はどうですか?どのようなところをトイレと認識するでしょうか?どのようなものを便器と認識するでしょうか?
トイレといっても、自宅のような完全に個室のトイレもありますし、公衆トイレのような(男性では)仕切りが無かったり、いくつもトイレが並んでいることもあります。
また便器といっても、小便器から大便器、和式トイレもありますし、洋式トイレもあります。多くの便器は白色ですが、緑色の便器でもそれを便器と認識することができます。
また、蓋があっても、蓋が無くても、便器と認識できます。
このように、一概にトイレや便器といっても様々な特徴がありますが、私たちはそれを認識できるからトイレの便器で排泄することができます。
例えば、便器が黒くても、多少変形していても、周りの状況からそれが便器であるとか、そこがトイレであると判断して、そこで排尿することができます。
しかし、認知症になって、認知機能が障害されると、細かい違いを捉えたり、細かい判断をすることが難しくなります。
そうすると、大まかな特徴でトイレや便器をとらえて、似たような形のもの、似たような特徴を持つもの便器と捉えてしまいます。
また、排尿を我慢するのが難しい場合であれば、さらに判断能力は鈍ります。おもらしは恥ずかしいと思っているので、漏らさないように急いで(自分が思う)便器で排尿をするというわけです。
今回の相談の場合は、洗面器やタンスですね。他にも、バケツやゴミ箱をトイレと思って排尿する人もいます。
要は自分の記憶や認識を頼りに、トイレ以外をトイレと思っているということです。
認知症の人が洗面器などのトイレ以外の場所で排尿するときの対処法
まずは認知症の人がどのような認識を持っているのかを知ることです。原因が違えば対応方法は違ってきますので、まずは、認知症の人がどのようなところをトイレと思っているのか、どのようなモノをトイレと思っているのかを知りましょう。
相手の認識を知るには、よく観察することです。見て聞いて、行動を共にして、相手の立場で考えることで、相手の認識を知ることができます。
トイレ以外で排泄をするときには大抵パターンがあります。それを知るのです。
例えば、洗面器などであれば、蓋がない・ふちがある・深さがある・ボウル状のモノをトイレと認識しているのかもしれません。
イメージ図
タンスの引き出しであれば、引き出したところで、「便器」と認識してしまうのかもしれません。ふちがあり、深さがあり、高さが便器の高さである引き出しをトイレと認識しているのかもしれません。
このように、相手の認識を知ったうえで、便器を認識してもらう、便器以外を便器以外と認識してもらうための工夫をしましょう。
例えば、
・トイレのドアに『トイレ』など本人がトイレと認識できるように表記する。
・便器ではないモノには、そのもの名称を表記する。(例えばタンスなど)
・ごみ箱などは蓋をする。
・タンスは引き出しをしまっておく、排尿をするタンスの段だけチャイルドロックなどで開けにくくしたり、その段だけ抜いておく。
・バケツや洗面器など、ふちがあり、深さがある形状のものは蓋をしたり、ひっくり返して、ボウル状に見えないようにしておく。
認知症の進行度合いや本人の認識によって対策は変わってきますが、このように本人の認識に合わせて行いましょう。
ただ気を付けたいのは、便器以外を便器だと認識しないようにした場合、便器と思えるところがなくて、我慢しきれず床に失禁してしまったり、違う隠れた場所で排尿したりすることもあります。
またトイレ(便器)がないからと排尿を我慢して、不穏になったり、泌尿器の病気になる可能性もありますので、注意深く対応していくようにしましょう。
できるようなら排尿のパターンを知り、うまくトイレで排尿できるように促すのが一番です。
認知症の人が洗面器などで排尿する場合考えることは対策ではなく、どのような認識を持っているのかを知ること
認知症の人が洗面器やタンスなどトイレ以外で排尿したとき、「認知症で、わからなくなっているから」「認知症になると何もわからなくなっちゃうから」このように思う人もいます。
「わざとやっているの?」「嫌がらせをしているのかしら?」このように思う人もいます。
しかし、何もわからないわけではなく、嫌がらせをしたいわけでもなく、ただ単に認識が変化しているだけで、本人は自分の認識に従って行動しているだけです。
自分ではちゃんとやっているつもりなのに、周りからは怒られる。トイレがわからなくて失敗する。
そのようなことが続けば認知症の人も怒りっぽくなったり、不穏になりやすかったり、BPSDと呼ばれる症状が出やすくなります。
認知症の人は、自分の意思や経験、感情もあります。たとえ周りから見たら認知機能が低下して正常な判断ができていなくても、です。
認知症の人にとっては、今までの自分と何かが違う、おかしいと思っていますが、何が違うのか、何がおかしいのかがわかりません。
そのことを理解し、介護者の認識を押し付けるのではなく、認知症の人の行動や言動に耳を傾け、認識はどうなっているのか、なぜその行動をしているのかを、的確に理解しようとする姿勢が最も大切になります。
この考え方を知るためには、まずは、認知症を理解し、認知症の人の世界を知ることです。自分自身で体験したり、体感したりすることです。
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