最近物忘れがひどい、何度も同じ事を言うし、何度も聞くこともあるし、約束を間違えることも増えてきた。
もしかして認知症?と思って「病院に行きなよ!」というけど、「失礼ね。私のこと、そんなに認知症にしたいの?」などと言って、なかなか病院を受診してくれない。
病気なら治療して治るかもしれないし、今の状態とこれから先どうなるのかを知りたいのに、なんで病院を受診してくれないのかしら?
このように、物忘れがあって、認知症じゃないかと思うけれど、本人がなかなか病院を受診してくれないという場合があります。
またそれとは逆に本人は病気だと思って病院を受診したいのだけれど、家族が連れて行ってくれないという場合もあります。
実は、認知症の人の受診が遅れる、病院受診ができないのにはいくつかの原因があります。
このブログでは、受診が遅れる理由と受診のための3つのポイント(言葉がけ、心構え、受診を促すテクニック)についてお伝えします。
受診が遅れる、受診できない理由
病院の受診が遅れる、受診できない理由として、本人由来の場合と家族由来の場合があります。
本人由来の場合
家族や周りの人が病院受診を勧めても、本人が嫌がることがあります。
受診の必要性がわからない
認知症が進行すると、記憶力が低下し、体験自体を忘れてしまいます。体験を忘れるということは、体験していないということなので、自分が忘れているという自覚に乏しい場合があります。
忘れているという自覚が乏しい場合、物忘れを理由に病院に連れて行こうとしても、自分は物忘れをしていないから、病院は必要ないと考えることがあります。
また、認知症により理解力や判断力が低下すると、自分の状況がわからず、受診の必要性が理解できないことがあります。
日常生活に支障がない
周りの人からしたら、記憶力や判断力や理解力が低下し、社会生活の中でできないことが増え、やきもきするかもしれませんが、本人にとって支障や不便を感じなければ病院を受診するきっかけにならないのです。
受診の習慣がない、慣れていない
あまり病院に慣れていない場合、病院の人ごみにつかれたり、待ち時間に疲れたり、待っている間に病院受診の目的を忘れたりして、病院に良い印象を持っていない場合があります。
病院=疲れるところと考え、受診が億劫になる場合もあるでしょう。
また、実行機能障害などがあると、病院でどう行動すればいいのかがわからなくなり、それが病院受診から遠ざかる原因の可能性もあります。
病気(認知症)と診断されるのが怖い
受診の必要性がわかっていても、病気が怖くて受診できない場合もあるでしょう。最近物忘れがひどいと思っていても、認知症に対する誤解から、過度に恐怖を感じ、病院受診ができない場合もあります。
病気は違えど、私が病院の外来にいた時、治療が難しくなるほど重症になってから、受診する場合もあります。その根底には、病気といわれるのが怖いという感情が流れている場合が多くあります。
家族由来の場合
本人が病院受診をしたいといっても、家族が受診を止める場合があります。
病気(認知症)と診断されるのが怖い
一番多いのがこの理由だと思います。
本人が、物忘れを訴えたり、周りから見て物忘れをしたり、判断力や理解力が今までとは違うと思っていても、家族は、認知症であってほしくないという思いから病院受診が遅れることがあります。
お嫁さんが義母の言動や行動がおかしいと思い、認知症かもと疑って、夫や義姉などに話をしても、取り合ってもらえず、病院受診が遅れるなどの話は割とよくあることです。
受診のための3つのポイント
人によって、病院受診しない、できない理由は様々ですが、このような理由により、病院受診ができなかったり、遅れたりしているのです。
では、できるだけスムーズに病院受診するための声掛けや行動はどのようなものがあるでしょうか。
1.NGワードとお勧めワード
NGワード
病院に行きたくないといっている人に
●「いいから病院に行くよ」(本人の気持ちを無視する)
●「本人(おかあさん)のためだから」(本人の気持ちを無視する)
●「病院に行ってくれなくちゃ困る」(家族の都合)
●「おかしいんだから病院に行かなくちゃダメだよ」(自尊心を傷つける)
病院に行きたいといっている人に
「病院に行く必要はない」(本人の気持ちを無視する)
「年をとったからだよ」(本人の気持ちを無視し、自尊心を傷つける)
このような言葉がけは、本人の気持ちを焦らせたり、追い詰めたりすることがあります。
相手の感情を考えず、正論や事実を押し付けると相手はさらに意固地になります。
辛い気持ちをわかって欲しくて相談したのに、感謝が足りないとか、もっとポジティブに考えようとか、正論や一般論を言われると、(正論はわかるけど、それより気持ちに共感して欲しいんだよー)と思って、ちょっと腹が立つ、あの感じです。
もちろん、本人の気持ちを無視したり、家族の都合を押し付けたり、自尊心を傷つけるつもりはないでしょう。
しかし認知症になると理解力が低下したり、コミュニケーションのニュアンスをくみ取ることが難しくなるので、気持ちを無視されているとか、都合を押し付けられているとか、バカにされていると感じつことがあります。
お勧めワード
「最近、体で困っていること、辛いこと、心配なこと、気になることはない?」(気持ちの共感)
「私は心配だから一緒に病院に行って欲しい」(Iメッセージ)
「お母さん(本人)が病気だと思うと私は心配」(Iメッセージ)
「なんで病院受診したくないの?」(気持ちの共感)
このような言葉がけをすることで、本人にとって気持ちをわかってもらえるとか大切にされていると感じるます。
一番辛いのは本人です。まずは本人の気持ちに寄り添ってみましょう。
「あなたは○○だ」という相手主体のメッセージではなく「私は○○だ」という自分主体のI(アイ)メッセージで話すと、同じ内容でも、受け入れやすくなります。
2.病院受診のための心構え
× 焦る
◯ 余裕を持つ
早く病院受診をしなくちゃと焦ると、その気持ちが伝わり、本人を追い詰めてしまったり、気持ちも不安定になりがちです。気持ちに余裕をもち、まずは病院受診を受け入れる気持ちになってもらうことが大切です。
また焦り、気持ちに余裕がなくなると、言葉や態度がきつくなりがちです。
気持ちに余裕を持つためには、家族も本人も信頼関係が築ける医師、病院を選びましょう。最初は病院受診が難しくても、時間をかけて信頼関係を築いてくれる病院だと、本人も家族も安心して受診することができます。
それだけではなく、自分の気持ちにも寄り添って、感情に蓋をせず、辛い時にはその気持ちを家族や友人に聞いてもらうことも大切です。
認知症があっても、よりよい生活をするために病院を受診するので、病院受診をめぐって認知症の症状が悪化するのでは本末転倒です。手段が目的にならないようにしましょう。
3.受診を促すテクニック
また、実際は声掛けだけでは難しい場合もあるでしょう。本人の気持ちに共感する、寄り添うといった前提をもって、受診を促すテクニックを使ってみましょう。
受診のタイミングを逃さない
人が病院に行こうと思うのは、自分の健康に不安があり、治りたい、治したいと思うときに病院に行こうと思います。
認知症以外でも、健康や症状に関する不安(頭痛や風邪、高血圧など)がでてきたら、そのタイミングを逃さずに、病院受診のきっかけにしましょう
第三者に病院受診を勧めてもらう
家族だと、話を聞いてくれないことがあるかもしれません。
また、関係が近いため、認知症に仕立て上げようとしてひどい家族だなどともなりがちです。
そんな場合は、友人や職場の先輩、かかりつけの医師など本人が信頼している第三者に病院受診を勧めてもらうのもいいでしょう。
実際、娘が病院受診を勧めても行かなかったのが、友人の一言により、病院受診したという例もあります。
家族だと話を聞いてくれなくても、第三者から言われると客観的に考えることができ、病院受診につながる可能性があります。
家族としても、第三者に間に入ってもらうことで、感情的にならずに済み、冷静に、客観的に話をできる場合があります。
医師や病院とまずは信頼関係を作る
病院受診になれていない場合や病院を信頼していない場合は、まずは病院に慣れ、信頼関係を築くような働きかけをしましょう。
頭痛や風邪など、軽いと思われる症状でも受診し、病院に行ったら治る、楽になるなどの印象が信頼関係を築くきっかけになることがあります。
また、健康診断や、家族の付き添いといって病院に行って受診できればそれでも良いのですが、中には、病院に一緒に行ったのはいいけど、認知症の検査はしないとか、自分は受診しないなどというかも知れません。
その時に、無理に検査をしようと説得したり、焦ったりすると逆効果です。そのような場合には、まずは医師に慣れる、病院に慣れる、信頼関係を作るという目的に変更しましょう。
何度か通って、信頼関係ができれば、「実は最近体調が悪くて」などと相談できるようになるかもしれません。
往診をしてもらう
病院に行くことが難しい場合、往診(医師が家に来て診察すること)をしている病院もあります。
病院の人ごみや待ち時間によって不安が強くなる場合や、病院でどうふるまっていいのかがわからず病院受診ができない場合にも有効な方法だと言えるでしょう。
ただ、往診に来てもらっても、本人が診なくていいと言ってしまえば、受診できません。
その場合はやはり、少しずつ医師との信頼関係を築いていく必要があるでしょう。
※健康診断や家族の付き添いという名目で受診したり往診を頼む場合は、まずは病院に相談して必要であれば、家族が先に受診しましょう。家族が先に病院や医師を知っておくことで、本人に自信を持って勧めることができます。
認知症初期集中支援チームの活用
医療・介護のサービスを受けていない認知症の疑いがある人や、認知症の人、その家族を専門職のチームでサポートする自治体のシステムです。
家族や友人などだけでは受診が難しい場合や対応が難しい場合には、このような行政の機関に相談するのもいいでしょう。
この場合も、第三者にお願いするのと同様、感情的にならずに済み、冷静に、客観的に話をできる場合があります。
このチームは厚労省の新オレンジプランの施策で、将来的には全自治体に設置される予定ですが、今は設置されている自治体とされていない自治体があります。お住いの地域包括センターに相談してみましょう。
まとめ
病院受診が遅れたりできないのには人それぞれ理由があります。本人のことを思うと、周りの人は力ずくでも病院に連れて行きたいところですが、その方法は効果がないどころか認知症の症状が進行してしまうきっかけになることもあります。
私の知り合いで、家族に病院受診を勧められていましたが、もともと病院にかかる習慣がないのもあって、最初は「物忘れなんかしていない。病気じゃない」と話していました。
家族も言わなくなりましたがそのうち、「最近物忘れがひどいから病院に行く」と自ら病院受診を希望。良い病院と巡り合えて「いい先生(医師)だ。病院に行ってよかった。」ときちんと通院しています。
このようにイソップ童話の北風と太陽ではありませんが、できるだけ本人や家族が納得して受診する方が、その後通院や治療がスムーズに行くことが多いでしょう。
一人で抱え込まずに、信頼できる友人や親せき、行政などを頼って、適切な病院受診につなげましょう。