認知症とは、認知症という病気ではなく、原因となる病気があって、生活するうえで支障が出ている状態をいいます。
その原因のうち、約半数を占めるのが、アルツハイマー病を原因としたアルツハイマー型認知症です。
ここでは、アルツハイマー型認知症の症状や特徴、進行について、私自身の経験も交えながらお伝えしていきます。
(症状や進行には個人差があります)
アルツハイマー型認知症について簡単に説明している動画はコチラ
↓ ↓ ↓
アルツハイマー型認知症の成り立ち
アルツハイマー型認知症は、加齢に伴って脳の中にアミロイドβやタウタンパクというタンパク質のゴミが蓄積されてこれらが広がることで神経細胞が傷つけられ、死滅し発症すると言われています。
それにより、大脳辺縁系の海馬や海馬傍回、偏桃体のほか、側頭葉、頭頂葉の大脳皮が委縮して認知機能が低下します。
また、アセチルコリンという脳神経細胞同士をつなぐ神経伝達物質が減少することで、認知機能が低下し記憶障害が進行すると考えられています。
認知症の症状とその進行
これらの症状は、アルツハイマー型認知症以外でもおこりますが、私の経験では原因となる病気によってそれぞれの症状の表出が違います。
アルツハイマー型認知症の主な症状
中核症状
・物忘れや憶えられないなどの記憶障害
・時間や場所、人間関係の見当がつかなくなる見当識障害
・段取りが難しくなったり要領が悪くなる実行機能障害
・見たものを正しく認識できない失認
・道具の使い方が分からなくなったり、着替えの方法がわからなくなる失行
・単語や言葉が出てこなかったり、言葉の意味がわからなくなる失語
・理解力や判断、計算といった左脳的能力の障害
周辺症状(BPSD)
BPSDとは、認知症による行動・心理症状のことです。
周辺症状(BPSD)は中核症状から二次的に出現する症状で、認知症になったからと言って全員に出現するわけではなく、また環境やコミュニケーションや関係性により症状がよくなったり悪くなったりするのが特徴です。
※昔は周辺症状や問題行動などと呼ばれていました。現在はBPSDと呼ばれていますが、このサイトではわかりやすくするために、周辺症状(BPSD)と記載しています。
アルツハイマー型認知症の進行
アルツハイマー病は一般的に進行が緩やかでアミロイドβというタンパク質のゴミが蓄積し始めてからおよそ20年を経て発病すると言われています。発症してからは初期から末期まで10年ほどかけて進行すると言われています。
アルツハイマー型認知症、初期の症状
物忘れ
脳の記憶を司る海馬が委縮するために、物忘れがおこります。海馬は短期記憶(近時記憶)に関わっているため、近い過去から忘れていきます(憶えていない)
数秒前のことを何度も聞いたり、体験自体を忘れる(憶えていない)ことがあり、加齢による物忘れとは区別されます。
対応例
×「今言ったでしょ!」と叱る
○ メモをして渡したり、目につくところに書く。
実行機能障害
料理をしたり、町内会の役員などで、段取りをしたり、要領よく行動するためには、目標(ゴール)を設定し、それを遂行するために、判断と選択と修正と実行を繰り返し行って、目標を効果的に達成するため、いい按配になるように行動しています。
判断や計算などの認知機能が低下することで、いままで出来ていた行動ができなくなり、目的が果たせなくなってきます。
対応例
×「今、何をやっているんだ?そうじゃないだろう?」とダメ出しをする。
○「じゃあ次は○○をやってね」と行動レベルで伝える。
時間の見当識障害
今現在の時間や日にち、年、季節がわからなくなってきます。
対応例
×「今日が何月何日かわかる?わからないの?」と責める
○ 日時がわかるようにカレンダーなどで工夫する
アルツハイマー型認知症の初期ではこのような中核症状が出現しますが、中核症状の二次的な症状としてBPSD(周辺症状)が出現する可能性があります。
実際は盗られていないのに「財布を盗まれた」「大切な印鑑を盗られた」と言う被害妄想や、物とられ妄想などがあります。
また、記憶の欠陥を取り繕うために作話(言い訳)をすることがあります。
アルツハイマー型認知症、中期の症状
自分でできることが減っていきますが、認識が変化していくため、周辺症状(BPSD)などで一番大変な時期かも知れません。
記憶障害
記憶力は減退していき、過去の記憶も少しずつ薄れていきます。自分が今何をしていたのか、なぜそれをしていたのかがわからなくなり、それによってこれからの予定もわからなくなります。
場所の見当識障害
今いる場所の見当がつかなくなってきます。そのため、自宅にいながら「自宅に帰る」といったり、近所に散歩に行って迷子になったり、トイレの場所がわからなくなったりします。
人間関係の見当識障害
遠く離れた人とのつながりがわからなくなってきます。
ADL(日常生活動作)の低下
失認、失行、失語などにより、道具やモノの使い方が分からなくなり着替えや入浴やトイレなどに介助が必要になってきます。
一人では日常生活が難しくなってきますが、間違えを指摘されたり、できないことを怒られることによって、傷ついたり、自信を無くしたりしてしまいます。
「間違えたら指摘した方がいいのですか?」という質問をいただく事も多いですが、間違えを指摘して良いことは一つもありません。間違えを指摘しても間違えが治る可能性は低く、人間関係が悪化するだけです。怒るのも同じです。怒りたい気持ちもわかりますが、怒ったからと言って、失認や失語や失行が治るわけではなく、人間関係を悪化させるだけです。
その人間関係の悪化が、周辺症状(BPSD)の悪化につながることも多々あります。
アルツハイマー型認知症、末期の症状
記憶障害
記憶全般が薄れていきます。記憶全般が薄れるということは、今までの言葉や経験を忘れてしまうということです。言葉が出なくなり、会話が困難になってきます。
人間関係の見当識障害
親しい人や自分のことが徐々にわからなくなってきます。
ADLの低下
脳の萎縮もあり、身体機能も低下します。トイレや入浴、食事など、日常生活のほとんどに介助が必要になります。徐々に歩行も難しくなっていきます。
このころには物とられ妄想などの被害妄想や徘徊などはなくなってきます。
脳が委縮し、今までのことを忘れ、会話が困難になっても、なにもわからないというわけではないと、私は考えています。そこに流れている場の空気や、対応する人の気持ちや関わり、親しい人の雰囲気など、表現はできなくなったかもしれませんが、感じることはできています。
寝たきりになってしまうこともありますが、ぜひ魂の尊厳を大切に、寄り添えたら、寄り添っていただけたらと思っています。
まとめ
アルツハイマー型認知症では、多くの場合、海馬が委縮するため、認知機能障害とそれに伴う二次的な周辺症状(BPSD)が出現します。
他の認知症でも同じですが、良好な関係を築くことで、認知症の進行が緩やかになり、症状が穏やかになります。
「どんな認識なのかな?」「いまどんな風景が本人には見えているのかな?」「なんで困っているのかな?」と認知症の人の立場に立って、寄り添ってコミュニケーションをとることで、良好な関係を築くことができるでしょう。