「母が脳梗塞の後、認知症と診断されました。今は何に対しても無気力で、何もしたくないという状態です。でもそれだと認知症が進むとテレビで見ました。認知症が進まないように無理にでも外出やデイサービスに行った方がいいでしょうか?もし行かないと言ったらどうしたらいいでしょうか?」
先日、このような質問をいただきました。
認知症があっても元気で楽しく過ごして欲しい。今までのように元気になって欲しい。認知症がなるべく進行しないように外出はして欲しいけど、どう声をかけていいのかわからない。そう思う人も多いと思います。
そこでこの記事では、無気力で何もしたくないという認知症の人への対応方法とその考え方についてお伝えしたいと思います。
認知症で引きこもることの一番の問題とは?
「人付き合いが少なく引きこもりがちになると、認知症が進行する」このような話を聞いたことがあるかもしれません。
確かに、家に引きこもってしまうと、刺激が少なくなり認知症の進行が早まる可能性もあります。しかしそれよりも問題なのは、無気力で引きこもることによって、社会とのつながりが弱まったり、切れてしまうことです。
認知症の人に、なぜ社会とのつながりが必要なのか
人間は社会的生き物である。他社との接触頻度や人間関係の質は、人々の幸福を左右するきわめて重要な要因である。家族であれ、友人であれ、あるいは同僚でアレ、人は他社と共に時を過ごすことから喜びを得るものであり、何を行うにも、他者と一緒の方が満足感が大きいちうのが一般的である(Kahneman and Krueger,2006)また、社会的ネットワークは、必要な時に物質面や感情面での支えとなるほか、就業その他の機会も提供する。
参考:OECD幸福度白書
人は個人で生まれますが、成長するにしたがって社会とのつながりが拡がっていき、他者との関わりや社会の中で生きていきます。
他者や社会との関わりの中で、自分の役割を見つけたり、居場所を見つけたりしていますし、助け合ったり、社会的ネットワークを利用することができます。
ところが、認知症の症状によって、無気力で引きこもってしまい、社会との関わりが薄くなったらどうでしょうか?
そうすると、自分の役割を見つけられなかったり、居場所がなくなってしまいます。それらがひいては認知症の進行を早める可能性はあります。
また、認知症の初期であれば、本人だけ、家族だけという小さい社会の中で生活を続けることもできるでしょうが、認知症の進行とともに、介護サービスや病院などを利用せざるを得ないときが来るでしょう。その時に社会とつながっていない、他者と関わりが持てないとなると、介護サービスを利用できなかったり、病院受診を拒否したり、病院での治療が困難になったりします。
ですから、認知症の症状で無気力になっても、少しずつ社会との関わりを取り戻せるようにケアしていく必要があります。
無気力の認知症の人が外出するようになるには、まず小さな社会の中で自尊心を回復する声かけを
認知症=物忘れと思われることも多いのですが、記憶障害ばかりが認知症ではありません。実は認知症には様々な症状があり、無気力(アパシー)やうつ状態も認知症の症状として出ることがあります。
アパシーとは
意欲や興味が無くなることを専門用語で「アパシー」と呼びます。
感情的無関心や動機付けの欠如、持続力の欠如、社会関係性の低下、興味・喜びの喪失など。
無気力、無関心、落ち込みなどの症状はどの認知症でも起こりうるもので、脳の変性に加え、病気による自尊心の低下もその引き金となります。
参考:https://www.yoridokoro-mental.com/single-post/behavioral-psychological-symptoms-dementia
全部わかる認知症の事典:成美堂出版
認知症になると、障害は自覚できなくても能力の低下は自覚します。(例えば物を忘れていることは自覚できなくても、いろんなことができなくなっていっていることは自覚できます。)
今までできていたことができなくなってきますが、それを周囲の人に指摘されると、自尊心が傷ついたり、自己肯定感が低下します。
そのような状態が続くと、「自分はもうだめなんだ」とか「何もできなくなった」「自分は役に立たない人間なんだ」などと言う気持ちになり、それも要因の一つになりアパシーにつながっていきます。
ですから、認知症で無気力で引きこもっている人に、「家にいると認知症が進むから」と無理に外出やデイサービスを勧めても、本人は、「自分が邪魔だから厄介払いをしようとしているのだ」と思ってしまいます。
自己肯定感や自信が低下しているので、ネガティブになりやすくなっているのです。
認知症が進行するからと外出やデイサービスを勧めても、本人はそれどころではないのです。
まずは、認知症の人の気持ちに寄り添いましょう。
家の中の小さな社会で自尊心の低下や自己肯定感や自信の低下を補う声かけをしましょう。補うケアをしましょう。
具体的には、
●長所を活かすことをしてもらう
●ありがとうと言う
●成功体験を提供する
●生きてきた軌跡を共有する
●「ない」ではなく「ある」に目を向ける
などです。
認知症の人は自分で自尊心を回復することが難しくなっています。だから周りがケアする必要があるのです。
家という小さな社会で認知症の人が「自分は役に立っている」「安心でいる居場所がある」という気持ちを満たしましょう。
無気力になっている認知症の人にいきなり外出やデイサービスという大きな社会を勧めるのではなく、まずは家の中で動機付けや興味・関心を持てるようにコミュニケーションをとり、気持ちを外に向けるようにします。
それから行動範囲や社会の範囲を広げていきましょう。
もちろん、自己肯定感が満たされているとか安心できる場所があると思えても、社会生活を拡げる方法は人それぞれです。新しいことを始めるのにはエネルギーもいりますし心のパーソナルスペースも人それぞれなので、相手に合わせた方法でやっていきましょう。
無気力によって引きこもってしまう認知症の人に外出を勧めるということは、認知症の進行が云々という問題ではなく、社会の中でどう生きていくのかを知り、社会的に孤立しないようにし、他者と共に時を過ごし喜びを得るために外出や人付き合いを勧めるのです。
自分の役割があり、居場所があり、自分は社会の役に立っていると実感してもらうために外出を勧めるのです。
それがひいては認知症の進行を緩やかにする方法であり、社会資源を活用し、介護が楽になる、お互いが笑顔になる方法なのです。
外出を勧める本当の理由を知らないで、外出を勧める声かけをしている人も多いのではないでしょうか?
しかし外出する本当の理由を知らないでむやみに「外出しろ」「デイサービスに行って」と言っても逆効果です。
認知症の人が家に引きこもるのではなく外出したほうがいい本当の理由、目的がわかれば、声かけやケアの内容も、外出先も変わってきます。
このことを念頭に関わっていけば、無気力で何もしたくないという認知症の人も少しづつ社会とのつながりを取り戻せるでしょう。
もしあなたが認知症の家族が無気力で引きこもっていて、外出しないと認知症が進むから外出を勧めよう!と考えていたら、ぜひこの記事を参考にしてみてください。
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